新文藝活動紙「明日を見つけた!」として、
に参加しました。
「ピアノのれきし」というタイトルの短編小説を投稿いたしました。
今回の新文藝活動紙、挿絵ゲストも、昨年に引き続き、みつもりさんにお願いしました。
みつもり
1991年生まれ。
大阪デザイナー専門学校イラストレーション科卒業。
絵を描く以外にも芝居や歌など幅広くかかわっている。
現在、印刷会社勤務。
『ピアノのれきし』
山奥の村に、ピアノがやってきた。日本人の癖に金髪をなびかせた娘が、山の麓にある空き家に運び込んだ。運搬を手伝う者は誰一人いなかった。
「なんじゃ、あんな金ピカの髪をして」
「鬼みたいな顔をしとったぞ」
「関わるとろくなことはないじゃろう。くわばらくわばら」
金髪娘は激しい気性の持ち主だった。村長が「戦争中に西洋音楽とは何事だ。軍歌を弾かんかい」と言えば「そんなの弾くわけねえだろが!」と、顔面にハイキックをかまして小屋へと戻り練習を再開した。
村の愛国青年団長が「それ以上ピアノを弾いていると、スパイに間違われて逮捕されることになるぞ」と、脅すと、よりいっそう演奏に集中し、超絶技巧を繰り広げた。団長は魂の揺さぶられる思いに戸惑い、わけがわからなくなって逃げ帰った。
金髪娘は、この村出身の男と西洋人の女との間に生まれた子らしかった。音楽教師となるべく東京で暮らしていたが、スパイの嫌疑をかけられて、娘だけここまで逃げてきたのだ。
ある日、「大きな倉庫を作りたいのだが良い場所はないか」と、村長は軍より相談を持ちかけられた。真っ先にあの家を取り壊し、建て直すことを考えたが、金髪の娘を匿っていたと責められたら、いったいどう言い訳して良いかわからず、家の存在自体を消すことにした。村中の若者が集まり、ピアノの練習をしている間に、藁や草や土を家にかけて覆ってしまった。家は山の一部分と化した。
金髪娘は、朝の時刻を迎えているにも関わらず、部屋が相変わらず暗いことに気がついた。おかしいと思って玄関を開けようとしても、重たくて動かない。
「あのバカ共め。また何か悪巧みを……」
金髪娘は意地を張って暗いまま何日もいつも通りに過ごした。
「いつまで根比べを続ける気かしら。それでも弾いてやるわよ」
しかしさすがに今が何日かも分からなくなってきた。彼女は一番嫌いな曲を弾いた。軍歌だ。これなら何か反応があるかもしれない。すると、最後の一音を弾こうとして終わる手前で、轟音が響いて、戸が崩れ落ちた。外へ出ると金髪娘の眼前には焼け野原が広がっていて、灰が舞い、炭と化した村があった。戦争がとっくに来ていて、とっくに過ぎ去っていた。娘が外へ出た瞬間、屋根が崩れ落ちた。軍歌の最後の一音が鳴った。
「あのバカ共……」
終戦をむかえ、なんとか建て直した娘のボロ家に新しいピアノと共にやってきたのは、青い目の占領軍だった。何か弾いてみろと言われ、日本の曲だけを弾いた。村長が「西洋音楽とやらをはやく弾くんじゃ!」と怒鳴ると、華麗なるストレートパンチが飛び、村長は肥だめまで吹っ飛んだ。軍隊は青い顔をして退散した。
村にはだんだんと人影が少なくなり、廃れた。改築を重ねた娘の家は、一番立派なたたずまいだという。今、どのようなピアノの響きになっているのかは、それでも村に残った愛国青年団長だけがにっこり笑って知っている。
おわり



by 猿川 西瓜
1992年